見出し画像

本屋による食の講座に参加したら、おいしいの辞書がつくれちゃう?!【後編】

アシスタント受講生の吉永です。このnoteでは、現在開講中の講座「SPBS THE SCHOOL おいしいってなんだ?」全6回の講義についてレポートします。今回は第4回から第6回、実際に農園に伺って学んだ後編です。これから受講を考えている方の参考になれば嬉しいです。よろしくお願いします!

第1回から第3回をまとめた【前編】はこちら↓

 第4回は農家SHO Farmの仲野晶子さん、翔さんの講義。

 ずっと気持ちの良い風が吹いていた。本来300年~1000年かけてようやく1cm育まれる表土を活かし、環境を再生していく不耕起栽培。良質な食を公平に、信頼に基づくコミュニティの中で再分配する『Pay it Forward』の試み。持続性とフェミニズムを軸に農業を通してゲームチェンジを仕掛けていく、クリエイティブな社会実験場にわくわくし通しの回でした。

 SHO Farmさんが教えてくれたのは、ともに食卓を囲むフラットな在り方が、わたしもわたしたちも重なり合うおいしいをつくるということ。晶子さんが講義の冒頭に話した「それぞれの持つ見えない特権とマイノリティ性に想いを馳せる」というグラウンドルールも、翔さんがニホンミツバチに言った「そこにいてくれるだけでいい」ということばも、農園のスタンスと、だからこその心地良さを体現しているようでした。経済優先のピラミッド型の社会構造で、死角化されがちなマイノリティを置き去りにしないこと。自然環境の中で人間の損得目線で排除されがちな表土も雑草もウジ虫も共に在ること。あるがままを肯定し内包してくれる空間では、そこに育まれる野菜も微生物も人間たちものびのびと結びつき、自然と良い表情が浮かんでいるのでした。

 第5回はコンポストアドバイザーの鴨志田純さんの講義。

 おいしいはごちそうさまから始められるのだ。『Table to Farm』を提唱し、地域の生ごみの活用で、食糧や堆肥の自給システムづくりやコミュニティ醸造に取り組む鴨志田さん。月の半分は畑から飛び出し、学びをシェアすることで日本各地に熱い発酵の場を生み出しています。コンポストトイレやコンポスト葬など、社会課題との連環を含めて、コンポストの可能性に目から鱗の落ちる回でした。

 初めて知ったのは生ごみをそのまま捨てることが思わぬ環境負荷につながっていたこと。生ごみは水分が多く、焼却処分に輸入品の重油が必要なのだそうです。一方で、各家庭で洗濯物を干すように生ごみを干し、水分を60%以下にできれば重油なしで燃やすことができます。生ごみを堆肥に活用する場合には、植物性/動物性の比率を変えることで、料理を調味料で味つけするように、野菜の味を堆肥でデザインできるというのも驚きでした。おいしいの始点の概念が揺らいでいきます。

 「料理とコンポストは食卓と社会をつなぐ接続詞。」ごちそうさまの度に出てくる生ごみ。それを環境低減やおいしいの種として捉え直し、自分ごととして、家庭からも循環の一歩を踏み出していこうと思います。

 最終回の第6回はパーマカルチャーデザイナーの四井真治さんの講義。

 人間の暮らしからも土と生態系を育むことができるのだ。社会の最小単位である家族でどれだけパーマカルチャーができるのか? 山梨県北杜市にある四井家はそんな問いから始まった暮らしの実験場。現代ではインフラによって便利に暮らしから切り取られる生ごみや排泄物、生活排水。それらを活用して堆肥やビオトープをつくる。自然の循環の中に人間が出すものを組み込んでいくことで、人間も含めた持続するしくみをデザインする四井家の暮らしに、小宇宙のような多様性と連環、その一部としての人間の可能性を感じた回でした。

 忘れられないのは、堆肥小屋でのヤギのキューちゃんからいのちが巡るお話。家族で愛情をかけて育ててきたキューちゃんが亡くなり、堆肥小屋に葬って数日、身体から湧いたウジ虫を鶏が食べる。鶏の排泄物もキューちゃんの亡骸も堆肥となり、大地に還る。そこから育った野菜を人間が食べる。キューちゃんが形を変えて存在し、いのちが続いていることを暮らしの中から受け取ったという出来事。それは四井家の土をつくる営みがあってこその経験なのでした。

 「おいしいとは、(自分の存在が持続することに対して)正しいということ。」個もいまも飛び越えて、地球目線で考え、いのち(つづく仕組み)を育む暮らしに実った本当の豊かさと真理がここにありました。

 フィールドワークで五感をフル稼働しながら、おいしいを学んだ第4回~6回。そこに広がっていた景色は土をつくるところからも、ごちそうさまの後も、ぐるぐると繋がって、たくさんの「おいしい」の用例集を教えてくれました。きっとおいしいは一言では表せなくて、ひとりひとりの文脈の中にある。私自身はこれから土に近づき、つくるところから関われる環境に身を移します。食卓に繋がる関係性の中に講座の学びを生かし、おいしいの重なりをつくっていきたいと思います。ありがとうございました!

—————————

*アーカイブ視聴コースは12月末まで受付