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自分一人だけの表現から、他者と生み出す一冊へ。【歌集編集ワークショップ[第2期] 企画者インタビュー:前編】

歌集編集を学ぶ人気講座「短歌を詠んだら歌集を編もう。SPBS THE SCHOOL 歌集編集ワークショップ」。SNSやインターネットで自分一人の表現を発信することは簡単な時代だからこそ、短歌を詠み、さまざまな視点を介して編集された一冊の歌集を生み出す魅力について考えたい。本講座を企画したSPBS THE SCHOOLの北村祐と鈴木美波に、企画背景や講座の魅力について話を伺いました。


偶然からの挑戦

──「歌集編集ワークショップ」を企画した背景を教えてください。

北村:僕も鈴木さんも短歌を詠んだり歌集を作ったりした経験はなくて、最近書店で歌集が盛り上がっていることを知っていたくらいでした。歌集の世界がどのようなものなのか、そこまで分かっていなかったんですよね。

「歌集編集ワークショップ」の企画は、2023年に実施した〈SPBS BOOKTALK FESTIVAL〉で、枡野浩一さん、穂村弘さん、くどうれいんさんをお招きした「ブックデザイン自慢合戦 〜考えるだけで少しだけたかぶる本の話〜」というトークイベントがきっかけでした。枡野さんの歌集『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』の編集を務めていた筒井菜央さんが当日会場にもいらっしゃって、イベント後に話をしていた時に「ほかにも何かイベントをやりましょう」と会話がはずんだんですよ。そこから筒井さんにナビゲーターを依頼して企画を練り始めました。偶然の出会いから生まれた講座で、昨年の第1期が好評だったので、今年の2月から第2期を実施しました。

鈴木:最初は短歌を詠むことだけにフォーカスした講座を考えていたのですが、講座の方向性を考えるうちに、そのような講座は今までにあったものの、一冊の歌集を編集するものはないことに気がつきました。「何か新しいことができるんじゃないか」という私たちの期待をナビゲーターの筒井さんにお伝えしたところ、筒井さんも共感してくださり、歌集を編集・制作するワークショップ型の講座として企画を打ち出しました。

また、個人的にも書店員としてさまざまな本と関わってきた中で、写真集や歌集など一つの作品がいくつも並ぶことで一冊にまとまっている本は、その制作過程についてよく分かっていなかったんです。「どのような人たちがどのような想いで一冊を完成させるのか知りたい」という純粋な興味もありました。

受講生によって制作されたミニ歌集


短歌を詠むことと、歌集を編むことの違い

──短歌と歌集では、制作過程にどのような違いがあるのでしょうか?

鈴木:短歌は一首でも作品として成立しますが、歌集の制作は複数の短歌を一冊の本にまとめる作業なので、「全体の流れを意識する」ことが必要です。歌集を作る時には、短歌を並べる順番やタイトルと収録作品のつながりなどを考えながら作り上げなければならないので、このような視点は短歌を作る時との大きな違いの一つだと思います。

また、歌集の制作には「物理的な『モノ』としての本をどのように作るか」という視点も加わります。歌集を作ることになってはじめて、決めることがとにかく多いことに気づかされます。

北村:一首の短歌を詠むだけでなく連作(※)として歌集にまとめる場合は、編集的な思考も大切ですよね。受講生の中には実際に短歌を詠んでいる人もいましたが、歌集を編むとなるとその過程で人によって得意不得意があり、短歌を詠むことと歌集を編むことは全く別の行為であることが分かりました。「歌集を編むことは、歌人にとってもかなり特別で難しい行為なんだな」と講座を通して感じましたね。
(※)複数の短歌を連ねて1つの作品とする作品形式のこと。


一人では作れないからこそ面白い

──講座の構成や講師選定において意識したことはありますか?

鈴木:企画者としては「短歌を詠むところから、歌集を届けるところまでを丸ごと経験してほしい」という想いを大切にしていました。一冊の歌集が出来上がるまでには、本当にたくさんの過程があります。それぞれの過程に携わる人たちがどのような考えで歌集に魂を込めているのかを間近で知ることができるのは、この講座の魅力だと思います。講師は主に筒井さんが選定されたのですが、歌集編集のさまざまな過程で活躍されている一流の方々ばかりでした。

「歌集編集ワークショップ[第2期]」企画担当 鈴木美波(SPBS THE SCHOOL)

北村:短歌の表現は歌人一人の主観から生まれることも多いですが、歌集を編集するためには客観的な視点が必要になってくるんですよね。

例えば、第5回で講師にお招きした梅﨑実奈さんは、紀伊国屋書店新宿本店の書店員です。筒井さんから講師のご提案をいただいた時、「書店員が『歌集編集ワークショップ』の講師に入るんだ!」と驚きましたが、梅﨑さんは若い頃からたくさんの歌集を読まれてきた経験があり、講座ではご自身が担当されている詩歌コーナーの売り場について書店員独自の視点からお話をされていて、講師として適任だったと思いました。改めて講師の名前が並んでいるのを見てみると、すごい人選ですよね。

「歌集編集ワークショップ[第2期]」ナビゲーター・講師

鈴木:「歌集は一人では作れない」と、講座を運営していて実感しました。今やSNSなどで個人が簡単に発信できる時代ですが、それらは自分一人だけでも完結するものが多いんですよね。一方で、今回の歌集のようにたくさんの人が関わることによって出来上がる作品は、やっぱり一人で作るものとは全く違うものになると思います。世の中に出す前にいろいろな人たちの目を通して行われる議論はどれも興味深いものばかりで、この講座は自分以外の人の視点をインストールして一つの作品を作り上げていく歌集制作の魅力を経験できる内容になっています。

▼後編はこちら


「短歌を詠んだら歌集を編もう。SPBS THE SCHOOL 歌集編集ワークショップ[第2期]」アーカイブ視聴コースの受講生を募集中です。
申込締切:2024年8月末まで

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