対話とインタビュー 文字で知る、話すことで知る、わたしとあなたのこと
6月10日、SPBS編集ワークショップ2023の第4回目が開催された。講師は、「me and you」の竹中万季さん、野村由芽さん。前半はインタビューの奥義、話を聞くことをテーマに、お2人からお話をいただき、後半は事前課題の取材依頼書を用いた公開インタビューが行われた。
「インタビューの依頼書は、ラブレター」。講義の中で印書に残った言葉だ。とてもキュートな言い回しだが、素敵なラブレターを書くというのは大変なことなのだと、今回の講義で改めて知る。ただ、あなたのことが大好きです! と伝えるだけではだめなのだ。限られた文字数の中で、取材要件をわかりやすく伝えた上で、さらに自分はこういう人間なんだということを魅力的に伝えなければならない。しかし、私たちは自分以外の誰かに自分の内面をアピールできるほど、自分自身と向き合えているだろうか。相手を見つめる前に、まずは自分のことを見つめる必要があるのではないか。
お2人は以前、女性に寄り添うメディア『She is』を立ち上げ運営していたが、それをクローズした後、新たに立ち上げたメディア『me and you little magazine』は、個人と個人の対話を出発点としてから、よりさまざまな人に寄り添えるように作ってきたものだという。『me and you little magazine』は、「わたしとあなたで対話する」「途中、過程、迷い、複雑さ、曖昧さの肯定」など、6つのフレーズを灯火(指針)としており、読者にも文字という形で共有されている。
これは、竹中さんと野村さんが、それぞれ個人で考える課題と世の中の課題をホワイトボードに書き出し、浮かび上がってきた大切な価値観なのだそうだ。文字は話すことと比較すると、外に出すまでに時間がかかる。ぐちゃぐちゃの頭の中から、相手に伝えたいことだけを選び、整理し、綺麗な形にして相手に渡すのが文字だ。この相手に渡すまでの間は、自分と向き合う時間だ。相手の気持ちを想像しつつ、自分の本当に伝えたいことを選ぶ。無意識のうちに、自分の大切にしていることに基づいて選ぶ言葉には、その人の人間性が表れる。依頼書を書くことは、自分の思いを言語化する作業でもあると思った。
後半は、「me and you」のお2人をインタビューイーに、受講生がインタビュアーとなって公開インタビューが行われた。今回の講義までの課題は、お2人に向けた架空の“ラブレター(取材依頼書)”を作成することだった。その “ラブレター”を見て、お2人が選んだ3名が実際にインタビューをするというもので、それぞれの色が強く出ており面白かった。インタビュアーによって空気感ががらりと変わるのだということを、身をもって体感した。スライドを介さずに聞く言葉は、どこにも寄り道せずまっすぐに届いてくるように感じた。話すことは、自分の思いを整理せずそのまま相手に渡す行為だ。だからこそ、聞く側は取材前の準備、自分と向き合う時間がとても大切なのだ。相手が思いを渡しやすいように、事前に伝えられる情報は伝えておく。話すスピードや声色で話しやすい雰囲気を作る。話が繋がりやすいように話す。そういった気遣いや思いやりこそが、インタビューの極意なのではないか。
インタビューで、野村さんは「自分を考える時、常に他者の存在がある」と話していた。インタビューされる人は、目の前にいる相手に話を届けたいという思いから答える。相手は違えど、インタビューする人もまた、同じ思いでインタビューに臨んでいる。インタビューは、自分を理解し、目の前の相手に寄り添うための行為なのだと改めて気付かされた。
最後に、対話とインタビューの違いは? という話が出たと聞き、面白いなと思い調べたものを、自分なりに図にまとめてみた。
調べてみると、話を聞くこと、と一概に言っても会話や対話、対談など似た意味を持つ言葉がたくさんある。ここで挙げられた、インタビューと対話は、一方通行のやりとりであること、双方のやりとりであること、という点で大きく意味が異なるようだ。しかし、取材前に相手を思ってする準備のことを考えると、一方通行のやりとりという部分には少し違和感を感じる。聞く側、聞かれる側の双方のやりとりになるか、対話のような取材にできるかどうかは、取材前の準備が鍵を握っているように思った。
文字での言葉には、自分自身の内面が、話すときの言葉には、自分自身の雰囲気が濃く反映される。それぞれが、自分の新たな一面を発見してくれる。対話の意味でいう「向き合う2人の人」は、「自分と自分以外の人」だけでなく、「自分と自分」という捉え方もあると思う。1つのことを、別の角度から見てみることで、自分1人だけでは気付けなかったことに目を向けることができ、より多くの人に寄り添えるのだ。
「me and you」の2人が作り出す雰囲気はとても穏やかであたたかく、今回の講義は時間がのんびり、ゆっくりと進んでくれている気がした。私も私なりの速度で、雑誌という媒体を使い、誰かが気軽に立ち寄れるような、そんな場所を作りたい。
アシスタント受講生 ふじもと
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