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デザインの役割は“生命力”を高めること? 雑誌を「死なせない」ために必要なのは“空気”

「SPBS編集ワークショップ2023」アシスタント受講生のレポート第7弾をお届けします。

 7月22日、SPBS編集ワークショップ2023の第7回目が開催された。今回は、講師にデザイナーの佐藤亜沙美さんが迎えられ、テーマは「本と雑誌におけるデザインの役割とは」。前半は講義、後半はワークとして、受講生が実際に思考マップと呼ばれるシートに取り組む。

 印象に残った佐藤さんの言葉が2つある。まず、「読者は、ごくごく飲みたい情報を欲しがっているはず」という言葉だ。何となく、植物に水が降り注ぐようなイメージが頭の中に浮かんだ。自然にあるけれど、どこにも引っかからず、すっと自分に馴染んでくれて満たされるもの。デザインは、そういうふうに仕上げる必要があるのかなと感じた。読者にとって一番最初に目に入る情報だからこそ、一目見ただけで、その作品の「面白み」を届けられるものでなくてはならない。佐藤さんは、作品の面白みはどこなのかをまず考えてから、それをデザインに落とし込むそうで、作品の強度を何倍にできるか、というところを大切にしているという。

講師の佐藤亜沙美さん

 2つ目は、「雑誌は『いきもの』だということ。そしてそこに「空気が入っていないと人間が介入できない」という言葉。雑誌は、文字や要素を揃え過ぎるとページが死んでしまうそうだ。ページを死なせない、生命力を高めるために必要なのは、空気を通してあげることだという。面白いな、買いたいなと思うようなデザインは、息がしやすいなと思う。追いかけてこないし、こっちを見てこないから、自分から近づいてみたくなる。講義中、デザインをつくる上で「遊び」という言葉をよく口にされていたが、遊びが、空気なのだと思った。整え過ぎず、1つ壊すと生命力の高いページを作れるともおっしゃっていた。

 たとえば、佐藤さんがデザインされた本の中には、“いかに読みにくいものを作れるか”を考えたものもあったそうだ。もちろん、読みにくいとは、読者に意地悪をするとかそういったことではない。分かりやすい、バランスのとれたデザインを壊して、少し遊びを持たせる。そうすることで、他とは違う、読者の興味を掴んで離さないようなデザインに仕上げることができる。読みにくくする遊びは、作り手自身が楽しむことでもある。それも、作品を生き生きとさせる力になることを知った。作品の面白みを抜き出し、ちょっとの遊び心で包み、形にする。それが、「生命力の高いページ」を作り出すために必要な過程なのだと学んだ。

デザインのイメージを擬態語に

 ただ、同時に、好き勝手やればいいというわけではないことも学ぶことができた。デザインは、自己満足で完成するものではない。「自分目線」と、「他人目線」の両方から考える必要があるのだと思った。「自分目線」は、自分と対話し、考えているイメージを整理すること。

 講義の後半で行ったワークがまさにそれだった。そして、「他人目線」は、自分の想定する読者を1人立てて考えることだ。その人が、その雑誌をぺらぺらと読んでいる姿が想像できるか。佐藤さんは、その人がどんな格好をしていて、何が好きな人なのか、外見から内面までかなり具体的に考えるのだという。「広く一般に向けられたものではなく、“自分に向けられた”と思えるものを読みたいはず」。と聞いて、確かにそうだなと納得した。自分の好みドンピシャの雑誌を見つけたとき、これは私のためにあるのでは……? と感じたことがあるからだ。

 自分が雑誌を作る立場だと考えても、どんな人に向けて作るのか、その人が楽しく読んでくれそうかという部分が具体的に考えられると、作りたいもののイメージをより明確にできそうだと思った。今回の講義を通じて、デザインに正解はないが、自分の想定する読者を裏切らないことこそが正解であり、読者に届く道筋になるということを教えていただいた。

後半のワーク「思考マップ」(佐藤さんが雑誌を作るとしたら、の例)

 後半のワークでは、自分の作りたい雑誌のイメージを「思考マップ」と呼ばれるシートに手書きで記入していく。手書きで、というのがポイントで、編集ソフトで作れる「……っぽいもの」にしない工夫であるそうだ。このシートに、「ライバル」「擬態語で表すとしたら」「この雑誌がこの世界に必要な理由」などの6点を書く。頭の中を整理して、自分の中にあるアイデアを具体的に形にする作業だ。ふわふわと浮いている迷子のイメージたちの居場所を決めてあげる。

 これは、自分と向き合う作業でもあった。何考えてる? と自分に聞いてみると、意外と考えてなかったなと思うところも多く、苦戦した。佐藤さんが講義の冒頭で言っていた「手書きで考えて、脳の隅にあった自分の考えを引っ張ってくる」という言葉の意味を、身をもって体感することができた。

ワークに取り組む受講生の様子

 ここ最近、ワークショップ終了後に制作する雑誌についての個別相談の時間が設けられている。参加してみると、自分には、思っていたよりも話してみたいことがたくさんあったのだと驚いた。SPBSの皆さんと、受講者の方から色んな意見やアドバイスが飛ぶ。と、同時にこんなことを考えていたのかと新しい気付きもあった。すでにデザインに起こしてみたという受講者もおり、私の雑誌はちゃんと形になるだろうかという少しの不安を抱えつつも、また次の回が楽しみだ。

アシスタント受講生 ふじもと

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