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水の音が聴こえる盛岡の街で

2時間10分だった。

東京駅を9時36分に出発し、はやぶさ13号に乗って11時46分に着いたのは盛岡駅だ。なんと言っても驚いたのは、東京駅から盛岡駅までの移動時間の短さ。最速のダイヤだったようで、お昼前には盛岡駅の壁面に設置された、石川啄木の「もりおか」の文字を見ることができたのである。なんなら体感の乗車時間はもっと短かったように思う。

今回初めて盛岡に訪れたのだが(岩手県自体が初めて)、関東で暮らしている自分にとって東北地方、特に仙台より北はなんとなく「ものすごく遠い地」という印象があり、勝手に見えない壁を感じていた。だが、そんな思い込みは完全に崩れた。帰ってきたいま、盛岡にまた行きたいと思っているし、そのほかの東北の地域(特に盛岡よりももっと北)にも訪れたい意欲にあふれている。

盛岡に訪れるにあたって、社内に出身者がいたので「ぜひ、おすすめを教えてほしい」と聞いてみたところ、滞在期間に合わせて作ってくれた豪勢なメモをもらった。今回は、その情報をもとに私が約1日(1日目昼〜2日目昼まで)滞在した中で巡った場所や、食べたものを紹介してみたい。

盛岡駅を出ると日が照りつけるほどに快晴で、気持ちがよかった。最初の目的地は決めていて、駅のほぼ目の前にあると言っても過言ではない「盛楼閣」に真っすぐ向かった。同僚いわく「冷麺は焼肉屋で食べるもの」とのことで、冷麺はもちろん、せっかくなのでカルビ一皿も注文。肉を焼いている間に、おまちかねの冷麺が運ばれてきた。

いただきます。辛味スープは最初から入れてもらうこともできるが、別皿に分けてもらった(個人的には辛いものが得意ではないので、別皿にして正解だった)。もちもちツルツルの麺がおいしい。汁もさっぱりしていて、少しずつ試すように辛味スープを混ぜていく。箸を止めることができないのは食欲のせいだけではない、うまいからなのだ!

カルビも挟みつつ、焼いている網に「南部鉄器」の文字を見つけ、早くも盛岡(岩手)を感じる。昼食を終えたら、「くるみクッキー」を求めに光原社へ。

北上川と雫石川に挟まれるように盛岡駅がある。駅の北側を流れる北上川が力強い水音を立てていた。堤防沿いには飲食店も並ぶ憩いのスペースがあり、緑が美しく映えている。橋を渡るとすぐに「材木町」と呼ばれるエリアがあり、「いーはとーぶアベニュー」という通りが出てくる。光原社(大正13年に『注文の多い料理店』を発刊したことで知られる出版社)をはじめ、材木町は宮沢賢治ゆかりの地のようで、通りにはいくつかのモニュメントを見ることができた。お昼すぎにお店に行ったのだが、お目当てのくるみクッキーは売り切れ……。

この日は残念なことが続く日で、通りを歩いていると、毎週土曜日にいーはとーぶアベニューで「よ市」と呼ばれるイベントが開催されるそうだが、あいにくタイミングが合わず……今回はこちらも断念。くるみクッキーもよ市も、次回は時期に合わせて訪れたいところ。

いーはとーぶアベニュー(奥にはチェロのモニュメントが見える)。

まだまだ探索は続く。材木町を抜け、大通り・映画館通りをゆるりと散歩しながら、着いたのは喫茶店「機屋」。喫茶での小休止は必要だろう。盛岡は喫茶店がひしめき合っているそうで、今回もたくさん教えてもらったのだが、訪れることができたのは2軒のみ。

機屋のドアを開くと、色とりどりのかわいいコーヒーカップとソーサーがカウンター奥に陳列され、手前にはドリップ用の機材がずらりと並んでいる。コーヒーに詳しいわけではないが、せっかくなのでいろいろ試したいと思い、飲み比べできるセットを選んだ。

店内には客は自分だけ。コーヒー豆をふるいにかけているザッザッ、豆をひくガガガザザザという音だけがお店の中を駆けめぐっている。心地いい空間。旅先だからだろうか、それとも空間がそうさせているのか、苦味が快い。美しい器のおかげでもあると思う。

次に目指すは盛岡城跡公園だが、その途中に石割桜を見学。市内には当時のお堀が部分的に残っていて、公園に接する内丸のエリアには飲食店がぎゅっとまとまっている。まるで別世界に入り込んでしまったかのように錯覚させるエリアが出現して、目的地になかなかたどり着かない。散歩しがいのある街、盛岡(とっても楽しい)。

石割桜の根元(桜の時期にも見てみたい)。
盛岡城跡公園の敷地内にある亀が池。

訪れたのは7月だったが、内丸を囲むお堀にはあじさいが鮮やかに咲きほこっていた。水面に映る姿に引きつけられた。

たたずむ水に沿って、公園内に入っていく。ひらけたところへ出ると、当時お城としてそびえ立っていたことがわかるくらい、見上げるほどの高さの大きな“かたまり”が現れる。

しっかりとした坂道だが、がんばって登っていくと啄木の歌碑とともに市街をぐるりと見回せる場所にたどり着いた。「あの山はなんだろうか」なんて考えながら、近くのベンチに腰かける。平坦な道が多く歩きやすかったが、少し休憩。

降りて驚いたのは、水の美しさと森にいるかのようなきれいな緑色。公園内にも続いているお堀の水なのだが、悠然とした様子がいまでも心に残っている。

公園を後にして、向かった先は「岩手銀行旧本店本館(愛称:赤レンガ)」。国の重要文化財にもなっているという赤レンガは周りの景色とは一線を画し、明治時代の風合いをそのままに残し、感じさせていた。館内は有料の場所もあったが、無料のところだけでも十分にその迫力を目に焼きつけることができた。

館内の様子。とてもきれいな状態で保存されている。

赤レンガから北に向かって歩いていくと、見えてきたのが本屋「BOOKNERD」。所狭しと置かれている本や雑誌に目を奪われる。そうして1冊購入したのがこちら。店主にも太鼓判を押され、次に訪れるときはこの本で予習してから来よう、と心に決めた。

『行ってみたいトコロ盛岡』(発行:くらしの知恵と道具jokogumo)
「はじめに」と「おわりに」で書かれているメッセージがすてきです。

BOOKNERDを出て、今度は街を南下していく。ようやく本日の宿「ととと」がある鉈屋町のエリアに進んでいく。鉈屋町は歴史を感じさせる町家が多く残されている地域だそうで、趣のある建物や家が立ち並ぶ。

「もりおか町家物語館」にも訪れ、ぐるりと鉈屋町を散策し終えた後、チェックイン。すでに日が落ちかかっていたので、そのまま夕食を食べに再度内丸へ。

北上川から枝わかれした流れの激しい中津川を横目に、夜ごはんにと目論んでいたじゃじゃ麺屋さんへ一直線。途中、盛岡城跡公園内にある歴史文化館の入り口前で、祭りの練習風景に遭遇した。20〜30人が一斉に踊る様は、太鼓などの楽器や音楽のテンポもあって勢いを感じる。そういえば、各所で見たポスターに「盛岡さんさ踊り」とあった。その練習なのだろう。祭り当日の様子は見られないが、練習風景に出合えたことも貴重だと思う。ちょっとだけ得した気分だ。みなさん、本番もがんばってほしい。

盛岡三大麺は、わんこそば・じゃじゃ麺・冷麺だそう。夕食は内丸にある「白龍(パイロン)」で、じゃじゃ麺をいただいた。麺をすべて食べ終わった後に器の中で卵をかき混ぜ、スープを入れてもらう。「チータンタン」と呼ばれる、じゃじゃ麺の締めが完成する。初めて食べ方を知ったが、最後のチータンタンも込みで満足感にあふれる。

夜も散歩は続く。目指したのは「細重酒店」での角打ち。宿からすぐのところに位置していて、夜は角打ちとして営業もしていると聞いたので、帰る前に寄ってみようと思っていたのだ。すると驚いたことに、その日「ととと」に宿泊していた僕を含めた3人がタイミングよく一堂に集結。地元の人たちともワイワイしていて、すごく盛り上がっていた。宿泊者のフランス人の男性が場を和ませていたのもおもしろかった。みんなも身振り手振りでコミュニケーションしている。心地いいにぎやかさ。一人で切り盛りしているという店主の女将さんは、元気に動きながら、会話にまざる。落ち着いたところで、取材を受けお店が掲載された雑誌も見せてくれた。見開きで数ページにわたって取り上げられていて、女将さんもうれしそう。

夜も更け、静まり返っている町家に囲まれて「細重酒店」の中は大熱狂である。とても楽しいひとときだった。


2日目の朝は早い。なぜなら、宿から歩いていける距離のところで「神子田朝市」が行われていると聞いたからである。4月から12月にかけてほぼ毎日、朝の5時からやっているそうなので、それに合わせて起床した。

着いてびっくり。すでに多くの人でにぎわい、売り場ではさまざまな交渉がされ、野菜や果物が買われていく。惣菜や料理を提供しているところもある。

前の日の角打ちで、朝市のおすすめのお店を聞いたので、それらを周りながら朝食にラーメンを食す。少しの背徳感がありながら、シンプルなラーメンの温かさに「三文の徳」を感じている自分がいる。

満たされてまた散歩。人から教えてもらったものは試してみたくなる性分なので、こちらも角打ちで聞いた「石造十六羅漢」(盛岡市指定文化財)を見にいく。公園の中に鎮座し、ぐるりと囲んでいる。

石造十六羅漢の像。

続けて、盛岡八幡宮に。朝に見る八幡宮は神々しく、早い時間帯もあってかそれほど人も多くなく、この空間を存分に味わえている。

盛岡八幡宮。

この日は平泉へ行く予定にしていたので、朝も早々にチェックアウトし、またまた内丸へ行き、喫茶店「六月の鹿」で二層になったアイスコーヒーをいただく。

そうして盛岡駅に戻ってきた。電車の出発まで少し時間があったので、駅のショップで福田パンのコッペパンを。たくさんありすぎて悩ましくうなっていたが、ようやく2種類購入し(急いでいるときに限って、レジが混み始める……)、各駅停車の電車に飛び乗った。


後日談

同僚に盛岡での思い出を語り(お土産も渡し)、くるみクッキーを入手できなかったことを悔やんでいると話したところ、後日帰省した際に買ってきてくれた! ありがたく、味わいながらゆっくり食べている。ありがとうがあふれた。

編集部・SK