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体験から始まる足利旅

こちらはSPBS編集部員による雑文連載コーナーです

いつもどおりスマホの中に入っている地図アプリで、目的地までの行き方を調べた。旅行をするときは大抵そうしている。車は持っていないので公共交通機関でのルートを必然的に調べることになるのだが、東京都内から電車やバスに2〜3時間も揺られると関東圏のだいたいの場所には行けるのだなと、地方出身の僕はいつも驚く。

今回は「足利」と入力して、どのルート、乗り換えがよいかを探す。ここで気づいたのだが、最寄りには「足利駅」と「足利市駅」がある。どちらを到着地にしようか。迷いながら旅程を組み立てていくのが、僕にとっては旅の面白さのひとつでもある。

プレゼント起点の旅行へ

結婚祝いにと、友人からもらったプレゼントは「SOW EXPERIENCE」と書かれたカタログだった。多種多様な体験がズラリと並んでいて、その中からひとつ楽しむことができるという。パラグライダー、エステ、乗馬、写真撮影、みそ作り、ホテルリゾート&スパ、金継ぎ、吹きガラス、陶芸、生花レッスン、ボイス・ボーカルレッスン……など挙げ始めるときりがない。

パートナーと相談し、吟味した上で選んだのが栃木県足利市にある「ココ・ファーム・ワイナリー」でのワイナリー見学だった。ワインがどんなふうに造られているのか見てみたかったこと、初めて訪れる足利にワクワクしたことが理由だ。1泊2日の旅程で、初日は現地に到着してから駅周辺の街並みをブラブラと歩いた。2日目のワイナリー見学の後に行きたいところの目星をつけておくためにも。

足利と言えば、足利氏。室町幕府初代将軍・足利尊氏公の銅像があったり、石畳の道がそこここにあったり、寺社が多く建っていたりと、ほんのりと情緒があり、ゆったりとした時間が流れていた。

急坂のブドウ畑

2日目は、前日少し涼しいかなと感じていた天気とは打って変わって晴天だった。もはや夏日に近いほどの気温があったのではないかと思う。駅から北に5〜6キロ行ったところに“体験”ができる、ココ・ファーム・ワイナリーがある。後でスタッフのかたの説明でわかったことだが、この場所はもともと当時中学校の特殊学級の先生だった人が少しずつ開墾して出来上がったブドウ畑だそう。知的障がいのある子どもたちが体を動かしたり、計画を立て考えたりしながらブドウを育てる、という試みから始まった場所でもあるという。ワイナリーの近くには「こころみ学園」という支援施設もある。

タクシーの窓から山の一面がすべて鮮やかな畑の緑が見えてきた。うわあ、と小さく声がもれる。白い袋に覆われているブドウがいくつも見え、すぐにそこがブドウ畑であることがわかる。急な斜面にできたその広大な土地に目を奪われた。

天井いっぱいにブドウが垂れているテラスの隣には、ショップやレストランが併設されている。時間になるとワイナリー見学が始まった。スタッフのかた1名が斜面のブドウ畑の成り立ちから、育てているブドウの品種や造っているワイン、そして大型のタンクがそびえ立つ温度調節が徹底された部屋で実際にどのように造られているのかを教えてくれた。

そこからさらに案内されたのは、ワインが眠っているという貯蔵庫だ。古びた木の扉をくぐると、製造所よりもひんやりとしたほの暗いトンネルのような場所。突き当たりには、ワインと言ったらこれ、と僕が想像するとおりのたるに詰められたワインたちが勢ぞろいしていた。ここで何年も時期が来るまで眠っているというから、ワインが完成するまでの時の長さを実体験として感じられたように思う。

外の強い日差しとのギャップに苦しさはあるが、いいものを見られたとホクホク顔である。見学は最後の行程へ。スパークリングワインはどうやって造られているのか、そんな話を聞かせていただいた。スタッフのかたの隣には炭酸を入れる装置もある。実演してくれて、ビンの中に泡が入っていることをこの目でしかと確認できたことは、今回の体験での大きな収穫だ。

ちなみにほかの収穫は、ブドウ畑に一緒にバラが植えられている理由を知ることができたこと。これはブドウに病気がかかる際に、ブドウよりも先にバラがその病気になるらしく、バラの状態を見ることによって、ブドウへの対処を迅速に行えることからそのようにしているという。

“体験”のすごいところは、このワイナリー見学に加え、ワインのテイスティング(5種類も!)、ショップなどで使える2,000円分のコイン、1人1本ワインを持ち帰れるお土産もついてきたことだ。ワイナリー見学に、おいしいワインをいただき、ほろよい気分で帰路に着けたのは言うまでもない。

五感で触れる歴史を

帰りは少し歩いて、あじさいが咲く寺院に寄り道しながら市街地へ戻ってきた。「文字焼(もんじやき)」ののぼりにつられて、昼食を。もんじゃ焼きになまる前の名前だと知らず驚いたのだが、シンプルな作りでいろいろなアレンジができる文字焼は疲れた体にパワーを与えてくれた。

石畳を歩きながら、前日から行くことを決めていた「足利学校」へ。遠目からでもわかる茅葺き屋根の建物は、ひと目でそれらが歴史あるものだとわかる。威風堂々とした姿に、「學校」の文字が掲げられた門、敷地にはいくつもの建物があり、手入れされた庭に、通りに面してお堀まである。メインの建物には展示のほか、広間で勉強ができるような机に問題用紙まで置かれており、もしかすると当時学んでいた人はこうして学問に励んでいたのだろうかと、勝手な想像を繰り広げてみる。

またブラブラと歩き始めると、少しずつ暮れてきた。足利学校近くの観光案内所の横では、こぢんまりとした櫓からにぎやかな大きな声が聞こえてくる。お祭りだろうか。歴史と伝統の息吹を感じながら、今にしっかりと伝え残っていることがこの短い滞在でもわかる。地図アプリを見て、今度はあしかがフラワーパークにも行こうねと話しながら、もう次の足利旅への妄想を膨らませた。

編集部・SK