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清田隆之さん×信田さよ子さん『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』刊行記念トーク【開催レポート】

こんにちは! SPBS広報の丸です。今回は3月にオンラインで開催した『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』刊行記念トークのレポートをお届けします。ゲストは本書の著者で、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表の清田隆之さんと、臨床心理士の信田さよ子さんです。
 
『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』には、タイトルの通り、現代社会に生きる一般男性(マジョリティ)側が抱えている苦悩が、10人の男性の実体験をもとに綴られています。
 
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が注目される昨今、ステレオタイプバイアス以外にもさまざまなレイヤーで、思い込みや偏見などによって苦しんでいる人がいることが明らかになっています。そもそも「まっとうさ」とは何なのか、共生社会において本当にケアされるべきは誰なのでしょうか。おふたりのトークから紐解きます。
 

INFORMATION
※本記事は、2022年3月3日にオンラインで開催されたトークイベント「『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』刊行記念トーク」の一部より構成したものです。
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「身の上話をする」ことが新鮮に思える 


清田:『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』を書くにあたって、10人の男性にお話を伺ったのですが「身の上話を聞かせてください」と言っても、最初はポカーンとされてしまったんですね。それでこちらから仕事や恋愛の話を投げかけながらインタビューを進めたのですが、みなさん「こんな話で大丈夫ですか」と戸惑いながら答えてくれました。彼ら自身、自分の語る身の上話に価値がないように感じたようです。でもこうして1冊にまとめてみると、一人ひとり内容は違っているんだけど、そこには不思議な共通性が見られたりして。僕の聞き方ゆえのことなのか、それとも共通する男性性から出てきたものなのか、わからない部分もあるのですが。
 
信田:私たちの仕事上、自分がどのようなポジショナリティで話を聞き出すかって難しいですよね。カウンセリングをやっていると、来たくもないのに来る人がいるんです。「妻から別居するって言われたから来た」とかで、何のモチベーションもない人が。
 
清田:そういうとき、信田さんはどうするんですか?
 
信田:「ここに来るまで、どんなことを聞かれるか不安だったんじゃないですか。パートナーの方と別れたくないからいらっしゃったのが分かりますよ」と伝えるんです。私はあなたを責めるつもりはないし、こうして来てくれたことを評価します、と。それが伝わるだけですごく話しやすくなると感じます。逆に言うと男性は日々、批判や評価、査定にさらされていることが分かり、なんて過酷なんだろうと思います。
 
清田:最近、男女共同参画センター主催の市民講座に呼んでいただき、そこで男性だけで互いの身の上話を語るという対話の場をつくる機会があったのですが、それがすごく盛り上がったんです。ここで話すことはオープンにしないという前提で、参加者を何人かのチームに分け、仕事の話や肩書き・実績ではなく、生活の細々したことやちょっとした悩みにまつわる話を語り合う。ルールとして、批判はしない、いったん全部聞き切る、何を話してもいいというのをシェアした上で話をしてもらいました。
 
参加者はみんな初対面の男性同士で、年代も20-70代と幅広い人がいたのですが、あるグループは「僕たちこのまま延長戦します」と言うほどに盛り上がって。男性同士の対話の中では突っ込んだりいじったり茶化したりが当たり前で、面白くしなきゃとか、オチをつけようとか、テーマに沿って話すとか、一緒にゴールを向かって話そうとか、何らかの圧力がかかっていると思うんです。だからただただ生活の愚痴とか、昔からモヤモヤしてきたことを話す感覚そのものが、新鮮に思えたのではないかと感じます。
 

レールに乗って会話をすると、自分の話をしなくていい
 

清田:最近、「コミュニケーションの持ち時間が少なすぎるんじゃないか問題」を考えています。話の途中で突っ込まれたり、いじられたりしてしまうこともあって、とにかく持ち時間が短い。それで、自分にマイクが回ってきたら、コンパクトに的確なことを打ち返す必要がある。そんな日々を生きていると、じっくり話す時間なんてないよなって。これって男性特有というか、ジェンダーも関係あったりするのでしょうか?
 
信田:女性も一般化できないけれど、「一般男性」があるとしたら「一般女性」もあると思います。マジョリティではないけれど、夫あり、子あり、日常生活ありという大まかな女性の人生のレールが、暗黙の了解として存在しています。それに乗ると、どれだけでも話ができるんです。
 
あのスーパーとこっちのスーパーがどうとか、子どもの小学校の先生はなんとかとか。だけど自分については話さなくても済む。そして子どもの受験のこととか、自分の出身校とか微妙な話題には一切触れない。そこにも暗黙のルールがあるんです。ツッコミとかはないけれど「一般女性」と言われる、均一なロールケーキの中心みたいなものはある。子どもを産んで、幼稚園や小学校に入るとそのルールの洗礼を受けやすいと思います。
 
清田:そうか。レールに乗っかっていれば楽にコミュニケーションできるという側面と、レールに乗っているがゆえに切り落とされたり、無理やり形を変えられてしまって抑圧になるという両方の側面があるわけですよね。個人的には、30代になってから女性の友人や知人たちから学んだ「お茶する」という文化が心地いいなと感じています。
 
信田:あれ、何話していると思う?
 
清田:思いついたことや感じたことをそのまま喋っているというか、シナプスみたいなものが生まれていく雑談をイメージしています。無関係で話も飛び飛びのように感じるけれど、実はそれぞれ一点ではつながっていて、連想ゲームのように広がっていくような。
 
信田:お茶飲みながら話すって、相手の言うことを聞いてないってことです。
 
清田:えええ!そうなんですか(笑)。「お茶する」って軽く見えて実は深いコミュニケーションだと思っていました。
 
信田:Aさんが好きなことを話すと、Bさんはうんうんって言いながらあんまり聞いていない。Bさんが話すとAさんはそうなんだ~とか言って、自助グループ的に会話をする。言いたいことを言い合って、それが奇妙に予定調和的にシナプスを生むんです。
 
清田:ああ、なるほど……。でもちょっとわかる気がします。桃山商事では昔「カラオケ的コミュニケーション」という問題について扱ったことがありまして、カラオケって誰かが歌っているとき、聴いているふりして次歌う歌を考えているじゃないですか(笑)。でも一応聴いてる感は出すし、それぞれが歌いたい曲を歌えて気持ちいい、みたいな。それに近いでしょうか。
 
信田:そうね。それで最後に「男ってそういうもんみたいよ」とか言っておけば会話が終わったりする。今日は楽しかった、また今度会おうかとか言って解散するんです。
 
清田:それを聞くと、男同士でカラオケ的におしゃべりするというのはあまり想像できない気がします。みんなで集まって話すことはもちろんあるけれど、その場で発生しているノリに合わせたり、割り当てられたキャラに則って振る舞い、ただただパス回しするように戯れていくみたいな流れが支配的なイメージがあって、男同士って本当に会話してるのかなって……。

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清田隆之(きよた・たかゆき)さん
文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信。朝日新聞beの人生相談「悩みのるつぼ」では回答者を務める。桃山商事としての著書に『生き抜くための恋愛相談』『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』(ともにイースト・プレス)、単著に『よかれと思ってやったのに──男たちの「失敗学」入門』(晶文社)『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』(扶桑社)がある。
Twitter@momoyama_radio
信田さよ子(のぶた・さよこ)さん
お茶の水女子大学大学院修士課程修了。駒木野病院勤務等を経て1995年原宿カウンセリングセンター設立、2021年5月で所長を引退し現在は顧問。
アディクション、摂食障害、ひきこもりの本人とその家族、DV、子ども虐待、ハラスメントや性暴力の加害者・被害者などのカウンセリングを行ってきた。日本臨床心理士会理事、日本公認心理師協会理事。
著書に『アディクションアプローチ』『DVと虐待』『加害者は変われるか』『家族と国家は共謀する』など多数。最新著は『アダルト・チルドレン』(学芸みらい社、2021)『言葉を失ったあとで』(上間陽子さんとの対談、ちくま書房)。


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