いつの時代も憧憬の地となって
2022年のゴールデンウィークは、福島県を回ってみたいと考えた。結果からお伝えすると、東京駅から出発して新白河(白河)、郡山、会津若松、福島・飯山温泉、浪江町・双葉町、いわき・湯本温泉を訪れることができた。
福島県に入ってからは、公共交通機関(主に電車)で移動したいと考えていたので、初めは東京から一番近い、福島県側の新幹線の駅を調べた。おのずと、最初の到着地は白河の街に決まった。
もちろん、経由地としてただ通り過ぎてしまうのはもったいないので、ぜひ観光しようとマップを見ながら考えていると、JR白河駅のすぐ北側に小峰城跡があり、南側には南湖と呼ばれる湖があることがわかった。南湖→小峰城跡→白河駅(→郡山駅)がなんとか自力で回れるルートだと計画していた。
すでにこの日の宿を会津若松駅周辺で予約していたこともあり、白河にいられるのは半日程度なので、回れるとしてもこの3箇所が最大限かなと予測。歩いて行こうと思っていたので、最悪、南湖まで行って帰ってすぐ移動しなければならないかも、とB案を心の片隅に忍ばせてもいた。
城跡から白河駅まで、距離にして3キロ弱。まあ、歩けない道のりではない……が、旅の初っ端からなかなかハードな道程である。
ありがたきご提案
新白河駅で新幹線を降りた後は、すぐに在来線に乗り換え、1駅先の白河駅で下車。旅の習慣としていつもどおり、駅を出てすぐ隣にある観光案内所「しらかわ観光ステーション」に入る。
お昼ごはんの情報やパンフレットを探し、受付にいた女性におすすめのランチ候補と、念のため観光スポットを伺う。白河のパンフレットと照らし合わせながら、「やはり南湖、小峰城跡はいいですよ」と太鼓判をいただき、南湖では「南湖だんご」が有名だと教えてもらった。「白河ラーメン」もおいしいらしい。本日のランチとおやつが決まった瞬間だった。
話をしていると、背負っている荷物が重そうに見えたのか、受付の女性が「自転車、レンタルしていますが、必要ですか?」と提案してくれた。白河駅から南湖まで3キロ弱、そこそこの距離を歩く覚悟を決める手前で、ありがたい助言をいただき、すぐさま申し込む。大きい荷物も預ってもらい、カメラだけを持って自転車にまたがった。
南湖公園の散歩道
そんなわけで、借りた自転車で南湖へと向かう。平坦な道をスイスイーと走っていくと、南湖が見えてきた。南湖を囲むように造られた南湖公園は国指定の史跡・名勝であり、福島県立自然公園にも指定されているそうだ。
駐輪場に自転車を停め、広がる湖を眺める。初めに到着したポイントからの景色が非常によく、南湖を一望することができ、奥には緑があふれている。
ぐるりと南湖を一周することにし、歩き始めてみる。南湖公園は、江戸時代に白河藩主・松平定信が築造したそうで、彼の銅像が鎮座していた。ボートが湖の片隅にかたまってつながれていて、誰一人乗っていないところを見ると、貸し出しの時期ではないのだろうか。ぷかぷかと浮いている様子は心なしか寂しげに見え、曇っている空とマッチしているようにも思える。
南湖神社に参拝し、神社を出てまた、草むらをずしずしと進んでいく。立派な桜の木は凛としている。景色を眺めているうちにふと、あちこちに歌碑があることに気がついた。後から知ったことなのだが、なんと南湖の周囲に、和歌と漢詩が刻まれた石碑が17か所も点在しているそうなのだ。「南湖十七景」と呼ばれるそれらを探しながら、歩いてみるのもおもしろそうだ。
どこからみても絵になる南湖。湖畔はとても穏やかで緑豊かで、ゆったりとした時間が流れていた。もう少し晴れている日や、紅葉の時期など、別のシーンも見たくなる。すぐそばを車道が通っていることもあり、車に注意する必要があるが、散歩にはもってこいだと思ったし、静かな空間に身を置きたいときは気持ちのいい場所だ。
みたらしだんごも、白河ラーメンも食べよう!
湖畔を半周したところで国道に出た。沿道は桜が満開だ。そして、看板の「ラーメン」の文字もちらほら目に入ってきた。
ピンときたお店に少し並んで入店。観光案内所でおすすめされた「手打チャーシューメン」を注文。シンプルな見た目ながらガッツリ食べ応えがあり、非常においしくいただいた。スープを飲む手も止まらず、完飲。
腹ごしらえした後は、湖畔の残りの半周を再び歩き始めた。急に、色とりどりの花が咲きほこるエリアに入り込んだ。いろいろな顔を持つ南湖にすっかり魅了され、気づいたらカメラを構えてパシャパシャ。
ようやく駐輪場近くまで帰ってきたので、歩き始めたときから気になっていた、「名物」「元祖」などと書き添えられただんご屋さんへ向かう。どのお店もいくつか味の種類があったが、みたらしを選択。ラーメンで満腹だったので、みたらしだんごは後でおやつに食べることにして、持ち帰り用を購入した。
次の目的地は小峰城跡。南湖、美しい景色をありがとう、また来ます! あと、白河ラーメンとみたらしだんごもまた食べたい!
今も昔も白河は人々を魅せ続ける
さて、来た道を戻るように、白河駅の方向へペダルをこいでいく。途中、駅前のにぎやかな通りを過ぎたとき、街の歴史を伝える史料としての看板が目に入り、城下町だったことを感じさせてくれた。次に訪れる城跡への期待感が高まる。
駅の向こう側へ行く必要があるので、歩行者・自転車用のトンネルで線路をくぐり抜けていく。トンネルに入った瞬間に目を奪われたのが、左右の壁にずらりと並ぶ、白河の街を紹介するパネルたち。
松平定信から始まり、南湖の見どころや、古くから旅をする者にとって憧れの地であったという白河関(古代の関所)、そしてそこで松尾芭蕉も歌を詠んだという解説が、ビジュアルとともに張り出されていた。50メートルほどのトンネルだが、その情報量は目を見張るものがあった。全部しっかりと読んでいると時間がなくなるので、とりあえず写真を撮っておく。
城跡の敷地に近づく、ポツリポツリと雨が降り始めた。「あ、降ってきたな」と思ったのも束の間、一気にザーザー降りに。急いで自転車を停め、奥まで進んでいき、現在の城址の様子をカメラに収めた。
雨の勢いが止まらないので、後ろ髪を引かれる思いで駅に戻り、自転車を返却。最後は駆け足になってしまったけれど、充実した時間を白河で過ごすことができた。これもひとえにレンタサイクルを教えてくれた受付の方のおかげである。今度は小峰城跡を念入りに見てみたいと思う。
郡山駅方面への電車を待つ間、みたらしだんごをいただく。箱いっぱいにだんごが敷き詰められ、黄金色のみたらしがすき間というすき間を余すところなく埋め尽くしている。たっぷりとタレをすくって食べてみると、甘くて冷えていてもおいしい。幸せな気持ちで心が満ちていくのを感じた。
心残りはあるものの、訪れたいスポット、食べたいものを網羅できた白河の旅だった。初めて訪れた福島の街だったが、行ったからこそ、さらに訪れてみたいスポットやお店が増えたし、まだ行ったことのない福島県内の街への興味が膨らんだ。福島県に限らず、全国にそんな場所が増えていくといいな、と思う。
まだまだ続く福島の旅。機会があればまた書きます。
編集部・SK