SPBSスタッフが選ぶ、2021年の本──年末のごあいさつに代えて
こんにちは! SPBS広報の丸です。
イベントレポートや社員のインタビュー、広報のコラムなどSPBSにまつわることをさまざまな角度でお伝えしてきたSPBS公式noteは、スタートして1年が経ちました! ご覧いただいているみなさんにお礼を申し上げたいと思います。いつもありがとうございます。
さて、年末のごあいさつに代えて、今年も、SPBSのスタッフが2021年に読んだベスト本をご紹介します。みなさんは今年、どんな本に出会いましたか? どんな読書時間を過ごしましたか? ご自身のこの1年を振り返りながら、ご一読いただければ幸いです。
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『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』 パリッコ 著(スタンド・ブックス)
“酒場ライター”の肩書きで仕事をするパリッコさん。SPBS TOYOSUのカフェでビールを販売していたことで、以前よりお酒を嗜むようになり、もっと楽しめるようになりたいと思い手に取った一冊です。本書はお酒に関するトピックだけにとどまらず、フリースタイルなコールスロー=「フリースローサラダ」のレシピ開発に励んだり、「朝ごはんを外食にしてみる1週間」を設けてマンネリを解消できるか検証したりと、食にまつわる日々の小さな実験を重ねる様子が描かれています。それらを淡々と表現しつつも、“生活”に向き合うパリッコさんの姿に大きな勇気をもらいました。(SPBS TOYOSUスタッフS)
『マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か』 杉田俊介 著(集英社)
いわゆる”マジョリティのシスヘテロ男性"である自分が、フェミニズムやセクシュアルマイノリティの問題について“正しく”向き合おうとするとき、そこにはさまざまな矛盾と葛藤が生じます。本書はそんな自分のような男性たちに、正しくあろうとするのではなく「たえまない揺らぎや葛藤、痛みや弱さとともに、(十分に正しくなくても)まっとうな男性であろうとすること」が大切であると説きます。それは一見、辛く果てしない道のりのようですが、むしろ自分はその言葉に、今まで自分が抱えてきた矛盾や葛藤は無駄ではなかったのだと、そっと背中を押されたような感覚を覚えました。この荒野のような新自由主義の時代の中で、他者や自分の弱さを受け入れ、葛藤に向き合いながら生きていくこと。その先により良い社会があるかもしれないということを、強く信じさせてくれた一冊です。(SPBS TOYOSU スタッフK)
『その落とし物は誰かの形見かもしれない』 せきしろ 著(集英社)
生活の中で、自分の頭の中に広がる世界につい没入してしまうという人は、幼い頃からたくさんの物語と出会い、吸収してきた人なのでは、と思います。そして世間はそんな人を“夢想家“とか“妄想好き“などと呼びます(私も、頭の中の世界に旅立ちがちな一人です……)。この本の中でせきしろさんは、道に落ちているものをきっかけに想像をむくむくと膨らませます。「こういう想像をついしてしまう人は自分だけじゃなかったんだ……」という驚きと、「この世界にはいろんなものを落としてしまった人がいるんだな……」という2つの驚きに出会える一冊。年末年始のお休みに、ちょっとずつ読むのもおすすめです。(編集部S)
『NYの「食べる」を支える人々』 アイナ・イエロフ 著/石原薫 訳(フィルムアート社)
今年8月にSPBS本店で、文筆家・井川直子さんの選書フェアが開催されました。そのフェアの棚をくまなく見ていると、私の“いつか読もうメモ”に入っていた本書を発見。井川さんからの紹介コメントに「『これしかない』人々には、与えられた仕事をまっとうしようとする意志があります」とあり、ニューヨークの「食」を支える人たちがどのような思いで仕事をしているのか、知りたくなりました。この本はニューヨークの「食」の現場を舞台としていて、料理長からラインコック、レストランオーナー、パン職人、ケータリング会社、施設の食事担当者など、さまざまな食の担い手が登場します。ジャーナリストである著者が彼らを訪ね、話し、情熱を込めて言葉を紡ぎます。そこには「食」に対する真摯さと、自分の仕事が好きだという強い思いと誇り、厳しい環境下でも楽しむ心を忘れないといった、一人ひとりのかっこいい生き様が描かれています。私は読む手が止められず、どこに行くにもこの本を持ち歩きました。食や料理が好きな人だけでなく、ぜひ多くの人に読んでほしい一冊です。(編集部K)
『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』 サリー・ルーニー 著/山崎まどか 訳(早川書房)
今世界で最も注目されているミレニアル世代の小説家、サリー・ルーニーのデビュー作(原書は2017年刊行)にして初邦訳作品。アイルランドの大学に通う主人公の女性の視点で進む物語は、タイトル通り文章の大部分が誰かとの“会話=カンバセーション”で構成されます。その手段も対面、メール、チャット、電話など、相手や状況でツールを使いわけ、この世代のコミュニケーションツールの多様性がうかがえます。自由や多様性が尊重されるからこそ、思い通りにならない他者の存在は悩ましくも愛おしく、傷つきながら(時には傷つけながら)も自分なりにまっすぐに生きようとする主人公の姿は、今年読んだ本の中でもっとも感動的でした。(企画PRチームSK)
『長い一日』 滝口悠生 著(講談社)
日々の育児で疲労が溜まっていた私が、ギリギリの状態で本屋に行ったとき、なんとなく良い空気感をまとっていたこの作品が目に入りました。読み始めると、どうやら小説家・滝口さん本人が語り手となり、引っ越しをめぐる、妻や愛着ある家との日々を書き記したエッセイであることがわかってきました。その心地よい文体と、小説家の見つめる世界の解像度の高さに驚き、ギリギリの状態を保っている私にとって束の間の癒しになると確信しました。しかし読み進めているうちに、途中で語り手が妻や別の人に変わっていることに気づきました。あとで調べてみると、この作品は滝口さん目線のエッセイとして書き始めたものの、妻の視点も交えて書いているうちに文章が小説のようになっていき、フィクションになったというではありませんか。いつしか小説にのめり込み、この登場人物たちが生きる世界を眺めたい、という動機で読書を進めることになりました。
ああ、この人たちは生きているなあ。私も、生きている。そのシンプルな感想に、その後どれだけ心を励まされたでしょうか。疲れ切ったときや、自分が無価値な人間に思えたとき。この素晴らしい一冊を多くの人に思い出してほしいです。(企画PRチームS)
『Amoeba』ショーン・ロトマン 著/飯田ひろみ 訳(NEUTRAL COLORS)
写真家、ショーン・ロトマンの写真集。“写真集”でありながら、内容はいたって個人的なスナップショットと、ラブレターのようなエッセイで構成されています。アーティストの前情報がなくても、エモーショナルな表現に親近感が湧き、心に残るものを感じました。その感覚は、実物を手に取ったときに伝わる熱量と、作品の制作過程を知ることで確信に変わりました。制作したのは、パーソナルな事柄をクリエイティブなものに昇華することを得意とする出版社〈NEUTRAL COLORS〉。全てリソグラフで印刷し、手製本するという気の遠くなるような工程。作品への愛。手間と時間を惜しまずモノに定着させる情熱。「紙で表現する」ことの意味を提示されているようで感動しました。(企画PRチームTK)
『急に具合が悪くなる』宮野真生子 著/磯野真穂 著(晶文社)
今年、ダイエットもしていないのに勝手に体重が減っていき、それまではどこか他人ごとだった病に対する意識が、初めて自分ごとになった感覚がありました。結果的に身体の異常は見つからなかったと医師から言われたものの、なんかモヤモヤする。そんなときに出会ったのが本書です。乳がんを患う哲学者・宮野さんと人類学者・磯野さんが、往復書簡形式で、題名の通り「急に具合が悪くなる」ことについて語り合います。みんな等しく急に具合が悪くなる可能性を抱えていること、不確定な未来ではなく、予測された先行きがほしいこと、リスクを考えた行動は自分を制限してしまうこと。読み進めるうちに、私のモヤモヤの原因は、医師が予測できる未来を与えてくれると思い込んでいたことにあると気づきました。SPBS本店の選書フェアで本書に出会わせてくれた、OYBこと藤井兄弟の言葉を借りれば「人間の営みすべてに関わる名著の中の名著」。自分は健康だと思っている人にこそ、読んでもらいたい一冊です。(広報部・丸)
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