「音楽と出会い、さまざまなカルチャーを知り、本が好きになりました」──SPBS 企画、PR担当・工藤眞平さんに訊く、長く続けられる仕事の話
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「音楽と出会い、さまざまなカルチャーを知り、本が好きになりました」──SPBS 企画、PR担当・工藤眞平さんに訊く、長く続けられる仕事の話

現在SPBSで企画・PRチームのチーフとして、日々さまざまな人たちと数々のプロジェクトに取り組んでいる工藤眞平さん。高校卒業後、音楽の専門学校に進学。演奏や作曲など音楽についてのイロハを学ぶ中で幅広いカルチャーに触れ、“本”の魅力に出会った個性的なキャリアパスの持ち主です。最終的に音楽の道ではなく書店という職場を選択した工藤さんにとって、「本」とは何か。「書店」とは何か。そしてSPBSで働く意義とは?──工藤眞平さんの思考の内奥に迫る連続インタビュー前編。

本をよく読むようになったのは、音楽がきっかけ

──学生時代から書店での勤務経験がある工藤さんですが、もともと読書好きだったんですか?

工藤:いや、全然そんなことはないです。高校卒業するくらいまでは読書をするという習慣がほとんどなくて、好きな漫画ばかり読んでいましたね。「本」を初めて意識したのは、高校在学中に三島由紀夫の『金閣寺』を読んだときです。名作、美文と言われているけど、当時は読んでも意味が分からず、悔しくて2回読み直しました。それでもよく分からなかった。

──高校卒業後は、大学に進学したんですか?

工藤:いえ、中学・高校とバンドをやっていたので、音楽の専門学校に進みました。はじめは楽器演奏科でギターの演奏を、その後作曲科に転科するのですが、あまり面白くなくて、結局1年半で中退しました。ただ在学中に、原宿や新宿のCD・レコードショップを巡ったり、国やジャンルを超えた音楽を聴いている先輩に出会ったりしたことで、さまざまな音楽を知れたのは良かったです。次第に演奏するよりも、聴くことの方が楽しくなっていったんですよね。

さまざまな音楽を聴いていると、音楽と別のカルチャーのつながりに面白みを感じ始めました。例えば、イギリスのロックバンド〈Radiohead〉のアルバム「Hail to the Thief」は村上春樹さんの著書『ねじまき鳥クロニクル』の影響をすごく受けていたり、1960年代にミニマル・ミュージックが流行した背景に、ミニマル・アートの存在があったり。本をよく読むようになったのは、そんなこともきっかけになっていると思います。

──音楽を聴くことが、別のカルチャーに触れるきっかけになったんですね。専門学校を中退後は何をしていたのですか?

工藤:フリーターをしていました。地元の飲食店でアルバイトをしながらお金を貯めて、海外へ一人旅に出たりして、さまざまなカルチャーを深掘りしていました。そのうち最終的に建築に興味を持ったんです。そして、1年間という試験勉強の期間を決めて建築学科のある理系の大学を目指すことにしました。

当時21歳。周りは普通に大学に通っていました。大学生活を楽しむ友人たちの姿を横目で見ながら、家に引きこもって猛勉強をしたのですが、数学が難しすぎて途中で心が折れてしまい……。改めて自分が興味を持ててこの先学んでいけることってなんだろうと考え、文系の中でも建築に近い、環境や都市のことを学べる学科に進もうと調べ直して見つけた大学に、22歳のときに入学しました。

──大学生活はどんな感じだったんですか?

工藤:必死で勉強して入学できたのにもかかわらず、正直あまり真面目に授業は受けていなかったですね(笑)。でも、大学1年のときに六本木の大型書店でアルバイトを始めたんですが、そこでの仕事はすごく面白いと感じていました。

長く続けられる仕事を選ぶ

──書店で働こうと思ったのはどうしてですか?

工藤:本に関わる仕事なら、ジャンルを問わず知識を増やせるだろうなというのと、海外を一人旅して英語がある程度話せるようになったので、外国人が多く住んでいる六本木という立地で外国の方と話す機会を持ちたいと思ったんです。

──工藤さんは、SPBS本店でもアルバイトしていますよね。

工藤:大学2年生までは六本木の書店で働き、約2か月間、インド・ネパールへの旅に出ました。帰国後、六本木の書店の先輩で、のちにSPBS本店初代店長になった三田修平さん(現・移動式本屋BOOK TRUCK店主)に声をかけてもらい、オープンしたばかりのSPBS本店で働き始めました。

2008年当時の奥渋谷エリアには、いまみたいに人通りが多くなくて。店内も閑散としていたのでそんなにやることもなかったのですが(笑)、時間をかけて手書きのPOPをつくっていたのはよく覚えています。本のあらすじや著者の経歴について調べてPOPを書くことで、知識も増えたし、他の人が書いたPOPを見ることも勉強になりましたね。

──SPBS本店で1年ほどアルバイトスタッフとして働いた後、以前アルバイトをしていた書店に戻ったと聞きました。

工藤:そうなんです。特に募集もなかったのですが、大学を卒業するタイミングだったので、僕は就職するつもりで当時の店長にメールを送りました。「長く続けられること」を仕事選びの基準にしていたのですが、絶えず新刊が入荷し、さまざまな分野の本を扱う書店という環境であれば、一つのことを突き詰めるよりも、いろいろなことを知りたいと思う自分も長く続けられるのではないか、この仕事は自分に向いているのではないかと思ったんです。

──「長く続けられること」を考えて就職先を選ぶというのは、すてきな視点ですね。

工藤:僕の中では明確な基準があって、就職先では10年間仕事をしようと思っていました。結果的に、アルバイトで入り直してから1年後に契約社員になり、3年後に正社員になり、入社8年目で店長になりました。区切りの10年を目前にして「この後どうしようか」と思い始めていたところ、SPBSの代表の福井から声をかけてもらい、2019年10月にSPBSに入社しました。

編集を通して、物事を深く読み解くワークショップを企画

──入社後は〈+SPBS〉や、〈SPBS TOYOSU〉の開業準備などの仕事を経て、現在は企画・PRチームのチーフを務める工藤さんですが、いま抱えている課題はなんでしょうか?

工藤:SPBS THE SCHOOL(以下、スクール)を、もっと盛り上げていかなくてはならないと感じています。そもそもスクールは〈SPBS TORANOMON〉と〈SPBS TOYOSU〉の両店舗で行うワークショップ形式のものを想定していました。渋谷の本店とはタイプの違う虎ノ門や豊洲のお客さまに向けて、“編集”を通してビジネスはもちろん、日常生活にも生かせるような編集力=学びを提供したいという考えがあり、そこはいまも変わっていないコンセプトです。

いまはオンラインをベースに、全国からご参加いただける形でスクールを企画運営しています。コロナ禍で予測不可能なことに対して耐性を持っておくべき、と考える人が増えたような気がします。そのため、人の話を聴いて終わりというトークイベント形式のものよりも、自分で手を動かしたり考えたりすることに高いモチベーションを持っている人や、コロナ禍で働き方や生活が変化したことにより、生きるために考える力を身につけたいと考える人に向けたスクールができるといいなと。そして、それを書店がやることに意味があるのではないかとも思っています。

──なるほど。具体的にはどんなスクールを企画しているんですか?

工藤:いま募集しているのは、雑誌『MOMENT』編集・デザインチームとSPBSが共同で主催する、編集ワークショップ「トランスローカルマップをつくろう! 短期集中講座(全5回)」です。

「トランスローカル」は『MOMENT』の造語で、自分たちが暮らす街や働く場所、コミュニティーを“超えて”どこか別のローカルのあり方に出会い、実践することで、新しい動きを探すこと、というユニークなコンセプトなんです。コロナ禍で自宅にいる時間が多くなったことで、住んでいる街やエリアのことをすごく考えるようになったのではないかと思います。そうしたことから、今回は『MOMENT』のみなさんにお声がけして「街」をテーマにスクールを企画しました。

これまでの「編集ワークショップ」でも、編集という作業のプロセスを通じて、ものを深く見たり、新しい見方ができたりすることを大切にしてきました。今回も成果物を生み出す過程で人にインタビューしたり写真を撮ったりすることで、自分の考えがアップデートされるのではと思います。どんな方にご参加いただけるのか、とても楽しみです。

(つづく)

工藤眞平(くどう・しんぺい)さん
1983年生まれ。東京都出身。高校卒業後、専門学生、フリーターを経て立教大学に入学。大学在学中には、オープンしたばかりのSPBS本店で約1年間アルバイトとして勤務。大学卒業後はCCC株式会社に10年間勤務し、ブックフロアマネージャー、店長などを歴任。2019年SPBS入社。+SPBS、SPBS TOYOSUのオープンに携わる。現在は、メディア事業部 企画・PRチームのチーフを担う。

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