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「編集とは、要素と要素のあいだをつなぐ技術」──編集者・水島七恵さんに訊く、編集の定義と仕事への向き合い方 中編

先の見えないいまの時代こそ、応用可能な「編集的思考」を学ぶ価値がある。そのような考えのもと、SPBS THE SCHOOLはケーススタディ形式の連続講座「編集のレッスン<第2期>」を開講します。この講座は、紙媒体から空間キュレーションなど幅広いジャンルの仕事を手掛ける編集者・水島七恵さんをナビゲーターに迎えました。
インタビュー中編では、講師の水島さんに、編集の定義と仕事の向き合い方などについてお聞きしました。

▼ 前編はこちら


──「編集とは、どんな仕事なのか」がよく分からない人は多いかと思います。水島さんのホームページには「文脈を立ち上げること」と書かれていますが、どのように編集観を掴んできましたか?

水島さん:20代の頃は「〇〇に会いたい」「私はこれが面白い」というような自分の欲望がそのまま取材や企画に直結していましたが、やはり編集業はそれだけでは成り立たないんですよね。編集を自分主体として捉えていたものが、「編集とは、要素と要素のあいだをつなぐ技術」と考えるようになって、自分のエゴが取れていきました。30代後半からは「何と何を組み合わせたら、どんな化学反応が起きるのか」といった発想に意義や喜びを感じるようになって、いつしか主語が自分じゃなくなりました。こうしたいではなく、こうなっていく。私は、そういう意義を見出せたから編集者を続けられていると思います。

──では、世の中における編集者の定義はどう感じていますか?

水島さん:一般的には編集者とは、本や雑誌を作る人だと認識されていますよね。大きく括るとそうなりますが、実際はもっと多様な場面でその職能が反映されています。
ところがその職能について、身近な距離で仕事を一緒にしている人にも、わかってもらえていないなと思う場面はあります。

──それはどんな場面ですか?

水島さん:「編集者=調整役」と捉え、スケジュールを調整したり、場を整えたり、あいだに入って言いづらいことを言ってくれる存在だと位置づけた人と仕事をする時。もちろん調整も編集者の大事な仕事ですが、編集の仕事は「ものをつくっている」と言える。そこが意外と理解されていなくて寂しくなることもありますよ。

──今回の講座にあたって、水島さんは編集の仕事について言語化されていますよね。

水島さん:受講していただく上でも、ゲスト講師にお声がけする上でも、まずは私が編集をどう定義しているのかを言語化することは大切だと思ったので、今回以下のように書かせていただきました。

“世界のなかのさまざまな事象は、文脈によってその意味も答えも問いも、可変していくものです。私は、編集とはまさにこの「文脈を見出す行為」だと思います。

事象には必ず状況、脈絡、背景が内包しています。それらの要素を個別に観察し、取捨選択をしながら編み上げていくことで新たな筋道が通るようになります。その筋道を文脈と捉えます。

文脈を作るとは「要素と要素のあいだをつなぐ技術」とも言えるかもしれません。そのあいだの距離が遠ければ遠いほど、つないでいく過程で大きな空間が生まれます。情緒と論理。科学と芸術。抽象と具象。自然と人為。ミクロとマクロ……。まるで振り子のように極から極へと視点を大きく揺らしながら筋道を手繰り寄せ、世界を発見していく。そのダイナミズムが編集にはあります。

今回、「編集のレッスン」第2期ナビゲーターを務めさせていただくにあたって、私は編集のダイナミズムを大切にしたいと考えました。その前提に立ってお声がけさせていただいたゲストの皆様は、それぞれ優れた文脈の設計者であり、解読者でもあります。

ゲストの皆様は一見すると編集とはほど遠い距離、領域の第一線で活躍されている方々に映るかもしれません。ですがひとたび編集の眼差しを通すと、私にはまるで地下水脈のようにつながって見えます。このように地下水脈を探し、すくいとっていくこともまた、編集的思考のはじまりではないでしょうか。“

SPBSサイトから引用


仕事の領域は、「髪の毛」から「宇宙」まで

Webメディア 髪を切るということ


──水島さんが、仕事のご依頼を受けるかどうかの判断基準はありますか?

水島さん:抽象的な言い方になりますが、その案件に奥行きを感じられるかどうかですね。奥行き、つまり未来につながるかどうかは、ご依頼のメールやお相手との対話のなかから分かるんです。私は、仕事をジャンルやクライアントの規模で判断することはないので、結果的に「髪の毛」から「宇宙」までの振り幅で今は仕事をしています。笑 

──髪の毛から宇宙までって、すごいですね。笑

水島さん:髪の毛というのは、表参道にある美容室「omotesando atelier」さんとのお仕事です。美容師として長年積み重ねてきた高柳さんのお話を伺いながら、髪を切ることは、髪型というスタイルだけではなく、その人自身の“生活する”という時間や態度が含まれている。そう実感したんです。仕事を受ける基準としては、自分の好奇心が発動するか。プロジェクトから未来を感じられるか。そして、編集者をどう定義してくれているか。できることの可能性というのは無限にあって、それをクライアントの方がどう捉えているか、でしょうか。


──いい仕事が生まれるクライアントの特徴とも言えますね。

水島さん:やっぱり編集者というものを感覚的に理解してくださっている方がクライアントだと仕事がしやすいですね。私にとってクライアントワークで一番大事なのことは、文脈という物事の筋道を編集者が握れる状態であること。例えばこの手綱を別の立場の方が強固に握りすぎていたりすると、編集者の役割は発揮できないですね。もちろんクライアントの意向や共に制作するチームの意向をその文脈に混ぜながら組み立てますが、その手綱は編集者が握った方が絶対にいい仕事になると思います。

──編集者が担う役割や可能性を理解していることで、仕事の結果も変わる。管理職やプロジェクトマネージャーなど、編集的思考が活かせる職種も多いかと思います。

水島さん:余談ですが、編集者って人事の仕事に向いていると思います。プロジェクトを立ち上げる場合、チームは仲良しであったり、心地よいだけでもダメ。どんな化学反応が起きるのかを想像したり、あらゆる配分も細かく設計する時に人を見る目が必要になる。優秀な編集者に人事をやらせたらその会社はすごく伸びるんじゃないかなと思います。

(つづく)
*後編では、編集者に求められる能力、編集的思考の活かし方と可能性について伺います。

▼後編はこちら

水島七恵(みずしま・ななえ)さん/編集者
ディー・ディー・ウェーブ株式会社に入社後、ヴィジュアルマガジン『+81(PLUS EIGHTY ONE)』編集・執筆、音楽とデザインのマガジン『AM:ZERO』の企画・編集・執筆を担当。2009年フリーランスに。 編集とは要素と要素のあいだをつなぐ技術と捉え、領域や媒体を問わず実践する。近年の主な仕事に機関紙『JAXA’s』、フリー冊子『tempo』など。
http://mninm.com/


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